南海トラフ巨大地震と        地中電力ケーブル          電力供給への影響とレジリエンス強化策

はじめに

南海トラフ沿いの巨大地震は、今後30年以内に80%程度の確率で発生すると予測されており 、日本の国土と社会にとって最も深刻な自然災害リスクの一つである。想定される被害は広範囲に及び、人口・産業が集積する地域を直撃する可能性がある。  

このような大規模地震において、電力供給の維持は社会経済活動の継続と被災者の生命維持に不可欠な基盤となる。特に都市部や重要インフラ周辺で普及が進む地中送配電網は、台風等の気象災害には強い一方で、地震特有の強い揺れ、液状化、地盤変位、津波といった複合的なハザードに対して脆弱性を有する。地中電力ケーブルの損傷は、広範囲かつ長期にわたる停電を引き起こし、社会機能や経済活動に深刻な影響を与える可能性がある。

本報告書は、エネルギーインフラのレジリエンスと災害マネジメントを専門とするアナリストの視点から、南海トラフ巨大地震が地中電力ケーブルに及ぼす影響を分析し、電力供給への潜在的なインパクトを評価する。さらに、電力事業者や政府機関が現在講じている対策を概観し、将来的なレジリエンス強化に向けた技術的・政策的課題と方向性を考察することを目的とする。分析にあたっては、政府機関の被害想定、関連研究、電力会社の防災計画等の公開情報を基に、特に南海トラフ地震の影響が大きいと想定される関西、中部、四国地方の状況に焦点を当てる。

第1章 南海トラフ巨大地震:想定される特性とハザード

南海トラフ巨大地震は、その規模、発生確率、想定される被害の広範さから、日本の防災対策上、最重要課題の一つとされている。電力インフラ、特に地中送電網のリスクを評価する上で、この地震がもたらす多様なハザードを正確に理解することが不可欠である。

1.1 震源メカニズム、規模、発生確率

南海トラフ巨大地震は、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込むプレート境界で発生する海溝型地震である 。想定される震源域は駿河湾から四国沖を経て日向灘沖まで広がり、強震断層域(強い揺れを引き起こす領域)は約11万平方キロメートル、津波断層域(津波を引き起こす領域)は約14万平方キロメートルに及ぶ広大なものである 。  

想定される地震の規模は、最大クラスのシナリオでモーメントマグニチュード(Mw)9.0から9.1と推定されており 、これは2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)に匹敵するエネルギーを持つ。中央防災会議等では、震源域の東側、西側、あるいは複数領域が同時に破壊するなど、様々な破壊開始パターンを想定した検討が行われている 。  

発生確率については、地震調査研究推進本部によると、M8~9クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は80%程度(令和7年(2025年)1月時点)と評価されており 、極めて切迫性が高い状況にある。過去の発生履歴を見ると、概ね100年から150年の周期で繰り返し発生している 。国は、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大地震・津波」を想定し 、最新の科学的知見に基づき、継続的に想定の見直しや情報発信を行っている 。  

1.2 想定される地震動と震度分布

最大クラスの地震が発生した場合、太平洋沿岸の広範囲で極めて強い揺れが予測される。特に静岡県から宮崎県にかけての沿岸部を中心に、多くの地域で震度6強から震度7の激しい揺れに見舞われると想定されている 。震度7が想定される市町村は100以上にのぼる 。内陸部や関東地方の一部でも震度6弱から6強 、東京都心部でも震度5強の揺れが想定される 。  

この揺れは、2分から3分といった長時間にわたって継続する可能性が指摘されており 、構造物への累積的なダメージや、地盤の液状化・変状を助長する要因となる。震度分布は、想定される震源モデル(基本ケース、東側ケース、西側ケース等)によって異なるが、いずれのケースでも広域に甚大な揺れ被害が発生する可能性が示されている 。  

表1:南海トラフ巨大地震シナリオ概要(最大クラス想定)

項目想定値・概要関連情報源
地震規模 (Mw)9.0 – 9.1
発生確率 (今後30年以内)80%程度 (2025年時点)
想定最大震度7 (広範囲で6強以上)
揺れ継続時間2~3分程度
主な影響想定地域(震度6強以上)静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、香川、愛媛、高知、大分、宮崎など
液状化リスク沿岸平野部、河川沿い、埋立地で高い
想定最大津波高10m以上(一部地域で30m超)

1.3 液状化、地盤変状、津波リスク

南海トラフ巨大地震では、強い揺れそのものに加え、二次的な地盤災害が広範囲で発生し、地中インフラに深刻な影響を与えることが懸念される。

液状化: 沿岸部の沖積平野や河口付近、埋立地など、砂質地盤が分布する地域では、強い長時間の揺れによって液状化現象が発生する危険性が極めて高い 。液状化は地盤の支持力低下、噴砂、側方流動、構造物の浮き上がりや沈下を引き起こす。広島県の被害想定では、液状化危険度(PL値)が15を超える地域が広範囲に分布することが示されている 。東京都内でも、震度が比較的小さいと想定される地域であっても、東京湾岸や河川周辺では液状化のリスクが指摘されている 。地盤の支持力を失わせ、不等沈下や側方流動を引き起こす液状化は、地上の構造物以上に地中の管路系インフラにとって致命的な脅威となる。これは、地中構造物が周囲の地盤と一体となって挙動するため、地盤自体の変状が直接的に構造物への外力となるためである。予測される広範な液状化発生域は、地中電力ケーブルの損傷が集中する可能性のあるエリアと重なる。  

地盤変状: 液状化に伴うもの以外にも、軟弱地盤での圧密沈下や、斜面でのがけ崩れ・地滑り など、多様な地盤変状が想定される。特に埋立地などでは、不同沈下によって地中構造物に応力が集中しやすい 。これらの地盤変状は、地中ケーブルやそれを収容する管路に引張、圧縮、せん断といった力を加え、損傷の原因となる。  

津波: 南海トラフ巨大地震では、広範囲に巨大な津波が襲来することも想定されている 。関東から九州にかけての13都県で10メートル以上の津波が想定され、伊豆諸島などでは最大31メートルに達する可能性も指摘されている 。津波は、地中ケーブルそのものへの直接的な影響は限定的かもしれないが、沿岸部の変電所や地上機器室、ケーブルの立ち上がり部などを浸水・破壊し、電力供給を途絶させる。また、津波による浸水や瓦礫の堆積は、復旧作業のアクセスを著しく困難にする 。  

これらの多様なハザードが複合的に、かつ広範囲で発生する点が南海トラフ巨大地震の脅威の核心である。マグニチュード9クラスの巨大なエネルギー、広大な震源域、高い発生確率、長時間の強い揺れ、そして液状化や津波といった深刻な二次災害が同時に発生することで、単一の局所的な地震とは比較にならない、社会システム全体に影響を及ぼす「システミック・リスク」を形成する。これは、インフラの多発的な同時被災と、それに伴う機能不全の連鎖、そして広域にわたる複雑かつ大規模な応急・復旧対応の必要性を示唆している。

第2章 高リスク地域における地中電力インフラ

南海トラフ巨大地震による被害が特に懸念される中部、関西、四国地方には、日本の主要な産業・人口集積地が含まれており、これらの地域を支える電力インフラ、特に地中送配電網の状況を把握することが重要である。

2.1 送配電ネットワークの概要

管轄電力会社: 南海トラフ巨大地震の想定震源域に面する主要な電力会社として、中部電力パワーグリッド 、関西電力送配電 、四国電力送配電 が挙げられる。これらの会社の供給エリアは、震度6強以上の揺れや液状化、津波のリスクが高い地域と広範囲に重なっている 。  

ネットワーク構成: 電力系統は、発電所で生み出された電気を超高圧・高圧の送電線で主要な変電所へ送り、そこから配電用変電所を経て、より低い電圧で需要家(家庭や工場など)へ届ける配電線網で構成される。都市部や景観・防災上の要請がある地域では、送電線・配電線ともに地中化が進められている。電力会社は、供給信頼度向上のため、送電線の複数ルート化(1ルート2回線構成など)や、配電線のループ化(隣接系統からの電力融通を可能にする)など、系統の多重化・ネットワーク化を図っている 。  

地中化の動向: 電線類の地中化(無電柱化)は、「防災」「安全・円滑な交通確保」「景観形成・観光振興」を目的として推進されている 。特に近年では、台風時の倒木による配電線被害などを背景に、電力インフラのレジリエンス強化を目的とした単独地中化(電力会社が主体的に実施)も進められている 。これは、病院や防災拠点など、優先的に電力供給を確保すべき重要施設への供給ルートを対象とすることが多い 。  

2.2 ケーブルの種類とシステム構成要素

ケーブルの種類: 地中送電線には、主に油絶縁を用いたOF (Oil-Filled) ケーブルと、固体絶縁体である架橋ポリエチレンを用いたCV (Cross-linked Polyethylene) / XLPEケーブルが使用される。OFケーブルは比較的古い技術であり 、CVケーブルが現在の主流となっている 。CVケーブルは、絶縁性能や耐熱性に優れるが、水分による劣化(水トリー)の問題も指摘されている 。電圧階級や用途に応じて、様々な構造のケーブルが存在する。配電網で用いられる低圧ケーブルも地中化の対象である。  

システム構成要素: 地中線路は、電力ケーブル本体に加え、以下の要素で構成される。

  • 接続部 (Joints/Splices): ケーブルセグメント間を接続する部分。
  • 終端接続部 (Terminations/Cable Heads): 地中ケーブルと架空線や変電所機器などを接続する部分 。  
  • 管路 (Conduits/Ducts): ケーブルを収容・保護する管。コンクリート製、鋼製、塩ビ製など多様な材質がある 。  
  • マンホール・ハンドホール (Manholes/Handholes): ケーブルの布設、接続、保守作業のための地下空間 。  
  • 洞道 (Tunnels/Culverts): 多数のケーブルを収容するためのトンネル構造物 。  

これらの構成要素が一体となって地中線路システムを形成しており、地震時には各要素およびそれらの接合部が地盤の挙動から影響を受ける。

地中電力インフラ、特に高圧送電線や高密度の配電網は、都市部に集中する傾向がある。これは、用地確保の制約や景観への配慮、需要の集中といった要因によるものである。一方で、これらの都市部は、歴史的に河口や沿岸部の沖積平野、あるいは埋立地に形成されていることが多く、第1章で述べたように液状化のリスクが極めて高い地域と重なる。この結果、社会的に重要度の高い電力インフラが、地震による特定のハザード(液状化)に対して最も脆弱な場所に集中して存在する、というリスクの空間的な集中が生じている。

また、長年にわたって建設されてきた地中線路網は、建設時期によって異なる設計基準や技術レベルが混在していると考えられる。古い区間ではOFケーブルや耐震性の考慮が不十分な管路・マンホールが使用されている可能性がある一方、比較的新しい区間や更新された区間では、CVケーブルや過去の震災の教訓(例えば、可とう継手の採用 )が反映された設計となっている可能性が高い。したがって、南海トラフ巨大地震発生時の地中線路の応答は一様ではなく、被災する区間の建設年代や適用された設計基準によって、その脆弱性が大きく異なることが予想される。  

第3章 地中電力ケーブルの地震時脆弱性

地中電力ケーブルシステムは、地上構造物とは異なるメカニズムで地震の影響を受ける。特に、地盤の変状が直接的な外力となる点が特徴であり、その損傷メカニズムと脆弱性を理解することが対策の基礎となる。

3.1 損傷メカニズム

強震動: 地中構造物は一般に地上構造物よりも揺れの影響を受けにくいとされるが、非常に強い揺れは、管路のひび割れや継手部の損傷、マンホールと管路の接合部の破損などを引き起こす可能性がある。特に、地盤特性が急変する箇所や、構造物間の接合部に応力が集中しやすい。

永続的地盤変状 (Permanent Ground Deformation: PGD): 地中線路にとって最も深刻な脅威の一つである。

  • 液状化: 地盤の支持力喪失により、管路やマンホールが浮き上がったり(浮上力)、沈下したりする 。これにより、ケーブルや管路に曲げ応力やせん断力が作用する。地盤が水平方向に移動する側方流動は、ケーブルや管路を引き延ばしたり、せん断破壊させたりする。過去の震災では、液状化地域で被害が集中する傾向が見られた 。  
  • 不等沈下・圧密沈下: 軟弱地盤や埋立地では、地震動による圧密や地盤の不均一性により、地盤が不均一に沈下する。これにより、地中線路に引張力や曲げ応力が生じ、特に剛性の高い接続部などで損傷が発生しやすい 。  
  • 断層変位・地すべり: 活断層のずれや大規模な地すべりが発生した場合、地中線路は直接的に切断される可能性がある。

相互作用: 実際の損傷は、これらの要因が複合的に作用し、地盤と構造物(管路、マンホール、ケーブル)の相互作用によって引き起こされることが多い。例えば、管路が破損することで、ケーブルが直接土砂の圧力やせん断力を受けたり、地下水が浸入したりする。

3.2 構成要素別の脆弱性

ケーブル: 地盤変状や管路・マンホールの損傷に伴い、過大な引張力(接続部からの抜け)、圧縮力(座屈)、急激な曲げ(許容曲げ半径超過 )、せん断力を受けることで損傷する。特に応力が集中しやすい管路のマンホールへの引き込み部や、損傷した管路の破断面などで被害が発生しやすい 。絶縁被覆の損傷や接続部の破損による浸水は、短絡や地絡といった電気的な故障につながる 。  

接続部 (Joints/Splices): ケーブル本体と比較して剛性が高いことが多く、周辺のケーブルや管路との相対変位が生じると、応力が集中し破損しやすい。接続部の破損は、回路の断線や絶縁破壊に直結する。

管路 (Conduits/Ducts): 地盤変状により、ひび割れ、圧壊、継手部での抜け出しや屈曲が生じる。過去の震災では、ヒューム管(HP)や一部の鋼管(SGP)などで被害率が高かった一方、比較的新しいプレキャストコンクリート多孔管(PD)や軽量鋼管(KGP)の被害は少なかったとの報告がある 。管路の損傷は、内部のケーブルへの直接的な被害や、土砂・水の浸入を引き起こす。  

マンホール・ハンドホール: 液状化による浮き上がりや沈下、傾斜、躯体のひび割れや破損が発生する 。特に管路が接続する箇所(ダクトマウス )での損傷が多く報告されており、これがケーブル損傷の引き金となることがある。現場打ちコンクリート製よりもプレハブ製の方が被害が少ない傾向も見られた 。  

3.3 地盤条件と布設方法の影響

地盤: 軟弱地盤は地震動を増幅させやすく、液状化や沈下のリスクも高い。異なる性質の地盤が接する境界部では、揺れ方や変状の仕方が異なるため、地中構造物に応力が集中しやすい。

布設方法: 管路布設時の埋め戻し土の締固めが不十分だと、地震時に沈下や変形が生じやすい。マンホール内に適切な長さのケーブル余長(たるみ)を確保すること 、管路の継手やマンホールとの接続部に可とう性(柔軟性)を持たせること が、地震時の損傷を軽減する上で極めて重要である。  

3.4 過去の震災における被害事例からの考察

過去の国内および海外の震災は、地中電力ケーブルの脆弱性に関して貴重な教訓を提供している。

  • 阪神・淡路大震災 (1995): 神戸市内の液状化地域で地中配電設備に甚大な被害が発生した 。供給支障に至ったケーブル被害の原因として、マンホール・管路の損壊(20%)、建物の倒壊に伴う引込線や立上り部の損傷(計67%)、火災による延焼(7%)などが挙げられた 。液状化によるマンホールの浮き上がりや沈下、管路の破損が多数報告され、可とう継手やケーブル余長の重要性が再認識された 。電力の応急送電完了までには6日間を要した 。  
  • 東北地方太平洋沖地震 (2011): 広範囲での液状化 や津波による浸水被害 が発生した。地中設備は揺れや風に対しては架空設備より被害が少なかったものの、液状化や津波に対しては脆弱性を示した 。仙台駅周辺など、地中化されていたエリアでも津波被害がなければ早期に機能維持できた例もある 。大規模・広域災害時の復旧の困難さも浮き彫りになった。  
  • 熊本地震 (2016): 送電鉄塔が土砂崩れの影響を受ける被害 などが発生したが、電力会社間の応援体制(九州電力への関西電力などからの応援 )が機能し、阿蘇地方を除き比較的早期に復旧が進んだ 。  
  • 能登半島地震 (2024): 道路の寸断が復旧作業の最大の障壁となった 。配電網にも大きな被害が発生し、全国からの大規模な応援隊(最大1日1,400人規模 )が投入された 。液状化や地盤変状による被害も顕著で、過疎・高齢化地域でのインフラ復旧の課題も露呈した。  

これらの事例から、地中線路の損傷は、ケーブル本体よりもむしろ、マンホールと管路の接続部、管路の継手部、ケーブルの引き込み部といった「接合部」や「境界部」で発生しやすいことがわかる 。これらの箇所は、構造的な不連続点であり、地震時の応力集中や相対変位を吸収しきれない場合に弱点となる。したがって、耐震対策においては、これらの接合部の設計や補強が特に重要となる。  

また、一つの構成要素の損傷が、他の要素の損傷や機能不全を引き起こす連鎖的な破壊の可能性も考慮する必要がある。例えば、管路が破損すれば、内部のケーブルが損傷しやすくなり 、さらに浸水によって電気的な故障に至る 。物理的な損傷が電気的な事故へと波及するプロセスが存在する。  

さらに、地中化は耐風性や景観上の利点がある一方で、地震、特に液状化や大規模な地盤変状に対しては、必ずしも架空線より優れているとは限らない。むしろ、被害箇所の特定や修復作業が困難になる場合もある。近年推進されている「レジリエンス目的の地中化」 においても、立地場所の地盤リスク評価と、適切な耐震設計・対策を組み合わせることが不可欠である。  

第4章 想定される電力供給への影響と社会的影響

南海トラフ巨大地震による地中電力ケーブルを含む電力インフラの広範な被災は、深刻な電力供給支障を引き起こし、社会経済活動全体に甚大な影響を及ぼすと予測される。

4.1 停電の範囲、継続時間、地域差

停電規模: 最大クラスの地震が発生した場合、被災直後には最大で約2,710万軒から2,950万軒の停電が発生すると想定されている 。これは、日本の総世帯数の半数近くに相当し、影響範囲は中部、近畿、四国、中国、九州の広範囲に及ぶ。  

地域別影響: 特に被害が大きいと想定されるのは、東海三県(約9割停電)、近畿三府県(約9割停電)、四国(約9割停電)であり、山陽三県(約3~7割停電)、九州二県(約9割停電)でも深刻な停電が発生すると予測されている 。  

継続時間:

  • 初期段階(数日): 発電所の被災や送電網のダメージによる需給バランスの崩壊が、広域停電の主因となる。電力系統の切り替え操作や需給調整により、この段階の停電は数日間で一部解消される可能性がある 。  
  • 中期段階(1~2週間以上): 電柱の倒壊や地中線を含む配電設備の物理的な損傷による停電が支配的となる。大部分(例えば9割以上)の停電解消には1~2週間程度を要すると見込まれるが 、津波による甚大な浸水被害を受けた地域や、山間部、道路寸断によりアクセスが困難な地域では、復旧が大幅に遅れる可能性がある 。例えば、上水道の完全復旧には四国の一部で最大8週間かかるとの想定もある 。  
  • 長期段階(数週間~数ヶ月以上): 主要な火力発電所の被災 や基幹送電系統の損傷が深刻な場合、西日本(60Hz地域)全体の電力供給能力が需要を長期的に下回る可能性がある 。この場合、節電要請や計画停電が実施される可能性も否定できない 。  

4.2 重要社会機能への影響

広範囲かつ長期にわたる停電は、現代社会を支えるあらゆる機能に深刻な影響を及ぼす。

  • 医療: 病院は非常用発電機を備えているが、燃料備蓄には限りがあり、全ての医療機器を稼働させられるとは限らない。停電の長期化は、救命救急活動や入院患者の生命維持に直接的な脅威となる。電力復旧においては最優先対象とされる 。  
  • 通信: 固定電話、携帯電話、インターネットといった通信網は電力供給に依存している。基地局や交換局の非常用電源も時間制限があるため、広域停電は通信インフラを麻痺させる。最大で約930万回線の固定電話が不通となり 、回線が生き残っても輻輳(ふくそう)により通話成功率は1割程度に低下する可能性がある 。情報伝達手段の喪失は、安否確認、救助要請、避難誘導などを著しく困難にする。通信ケーブル自体の物理的損傷も被害を拡大させる 。  
  • 交通: 信号機の滅灯 による交通混乱、鉄道(新幹線を含む )の運行停止、港湾・空港機能の麻痺 など、交通システム全体が機能不全に陥る。燃料供給網の寸断も、車両の運行を困難にする。  
  • 上下水道: ポンプ場や浄水場、下水処理場は電力で稼働しているため、停電により断水や下水処理機能の停止が発生する。最大で上水道は約3,400万人~3,690万人 、下水道は約3,570万人 が利用できなくなると推計されている。  
  • 経済活動: 工場やオフィス、店舗の活動停止、サプライチェーンの寸断により、生産・サービス活動は甚大な打撃を受ける。特に太平洋ベルト地帯に集積する製造業等への影響は大きく、その被害額は45兆円を超えると試算されている 。  

4.3 地震後の復旧作業における課題

大規模停電からの復旧作業は、多くの困難に直面する。

  • アクセス困難: 地震による道路の損壊(陥没、段差、土砂崩れ、橋梁落下など) や津波による瓦礫の堆積は、被害状況の調査や復旧作業員・資機材の現場へのアクセスを著しく妨げる。阪神・淡路大震災 や能登半島地震 でも、アクセス問題が復旧の大きなボトルネックとなった。道路啓開作業との連携が不可欠となる 。  
  • 資源(人員・資機材)の制約: 広範囲にわたる甚大な被害に対し、復旧に必要な熟練作業員(阪神・淡路大震災ではピーク時1日6,000人以上 、能登半島地震では1日最大1,400人規模 )、特殊車両(クレーン車、高所作業車など)、交換用資機材(ケーブル、電柱、変圧器など)を迅速かつ十分に確保・投入することは極めて困難である。全国規模での応援体制(電力会社間の相互応援協定 )が整備されているが、南海トラフ巨大地震のような未曽有の広域災害においては、その供給能力自体が逼迫する可能性がある。  
  • 燃料確保: 復旧作業車両や電源車 、非常用発電機を稼働させるための燃料(軽油、ガソリン等)の確保と輸送が課題となる。製油所や油槽所の被災、輸送ルートの寸断により、燃料供給が滞るリスクがある 。電力会社は燃料供給事業者との間で優先供給協定を結んでいる 。  
  • 安全確保と二次災害防止: 余震が続く中での高所作業や重量物の取り扱い、損壊した建物の近くでの作業など、復旧作業には危険が伴う。また、停電復旧後の通電火災を防ぐため、需要家側の安全確認が必要となるが、住民不在等により時間を要する場合がある 。  
  • 復旧作業の複雑性: 送電網から配電網まで、相互に連関する電力系統全体の復旧は、被害状況の正確な把握と、優先順位付けに基づいた計画的かつ段階的な作業が求められ、高度な調整と時間を要する。

これらの影響と課題を考慮すると、電力供給の途絶は、単なる不便にとどまらず、人命、社会機能、経済活動の根幹を揺るがす深刻な事態を引き起こすことがわかる。特に注目すべきは、電力、水道、通信、交通、燃料といったライフライン間の強い相互依存性である。電力の喪失は他のライフラインの機能を停止させ、逆に他のライフライン(特に道路交通網)の寸断は電力復旧を遅らせるという悪循環に陥る可能性がある。したがって、電力復旧は他のサービス回復の前提条件となる最重要課題であるが、その達成は他のインフラの状況にも大きく左右される。

さらに、応急的な配電網の復旧(数週間レベル )が進んだとしても、大規模な発電設備(特に火力発電所 )の損傷が深刻であれば、西日本全体の電力供給力が需要に対して長期的に不足する事態も想定される 。これは、電力系統の物理的な接続が回復した後も、エネルギー不足による社会経済活動への制約が続く可能性を示唆している。  

そして、南海トラフ巨大地震の被害が想定される地理的な広がり(複数の県、複数の電力会社の管轄エリア )は、これまでの震災対応で機能してきた全国規模の相互応援システム に対しても、かつてない負荷をかける可能性がある。広域で同時に大量の人員・資機材が必要となる状況は、資源の分散と不足を招き、結果として復旧ペースが過去の事例よりも遅くなるリスクを内包している。  

表2:南海トラフ巨大地震における想定電力供給支障の影響

項目想定される影響・課題関連情報源
最大停電規模約2,710万~2,950万軒
影響人口(推定)数千万人規模(日本の人口の数割) (上下水道影響人口から類推)
停電継続期間(目安)・需給バランス起因:数日<br>・配電網物理損傷起因:大部分解消に1~2週間以上<br>・発電能力不足起因:数ヶ月以上の可能性
重要インフラへの影響・病院:機能低下、非常用電源依存<br>・通信:大規模不通(固定930万回線等)、輻輳<br>・交通:信号停止、鉄道停止、港湾・空港機能停止<br>・上下水道:断水(最大3,690万人)、下水処理停止(最大3,570万人)
復旧の主な課題・アクセス困難(道路寸断)<br>・資源不足(人員、資機材)<br>・燃料確保<br>・安全確保(二次災害防止)<br>・調整の複雑性

第5章 現行の被害軽減・対応準備策

南海トラフ巨大地震のような大規模災害に備え、電力事業者および関係機関は、電力インフラの被害を軽減し、発生した場合の早期復旧を図るため、多岐にわたる対策を講じている。これらの対策は、設備の耐震性向上、システムの冗長化、そして迅速な応急・復旧体制の構築を柱としている。

5.1 耐震設計基準と補強策

設計基準: 電力設備の耐震設計は、国が定める技術基準や、業界の指針に基づいて行われている。特に変電所設備や地中送電線の終端接続部などについては、電気技術指針「変電所等における電気設備の耐震設計指針」(JEAG)が参照され 、洞道(とうどう)については土木学会の「トンネル標準示方書」などが用いられる 。架空線については、通常、風圧荷重に対する設計基準が地震荷重を上回るため、これが耐震性も担保する形となっている 。  

耐震補強: 過去の震災経験(特に1995年の阪神・淡路大震災 )を踏まえ、既存設備の耐震性向上のための補強工事が実施されている。例として、変電所における機器支持架台の補強(すじかい挿入など) や、変圧器の耐震対策工法の改善 、送電鉄塔の支持がいしへの免震対策 などが挙げられる。関電工などの関連企業も、受変電設備の耐震技術開発に取り組んでいる 。  

液状化対策: 設計においては、一般的な地震動による液状化が発生しても、「機能に重大な支障が生じないこと」を基本的な目標としている 。地中線路においては、液状化しやすい埋立地などの地盤条件に応じて、後述する「可とう性のある継手や管路」を採用し、不同沈下等に対応する設計が行われている 。  

5.2 採用されている耐震技術

可とう性(フレキシビリティ)の確保: 地盤変状による地中線路への影響を軽減するため、システムに柔軟性を持たせる技術が広く採用されている。

  • 可とう継手・管路: 管路の継手部やマンホールとの接続部に、伸縮性や屈曲性を持つ「可とう性のある継手」や「可とう性のある管路」を用いることで、地盤のずれや変位を吸収する 。マンホール接続部には「ダクトスリーブ」が導入され、耐震性を向上させている 。  
  • ケーブル余長: マンホール内にケーブルの「余長(たるみ)」を適切に設けることで、地震時に管路や地盤が動いてもケーブルに過大な張力や曲げがかかるのを防ぐ 。  

材料・構造の改善: 過去の被害実績に基づき、より耐震性の高い材料や構造が採用されている。例えば、特定の種類の管路材(PD管、KGP管など)は、旧来のヒューム管(HP)や鋼管(SGP)に比べて被害が少なかったとの報告がある 。マンホールのダクト口の耐力向上のため、SFRC(鋼繊維補強コンクリート)が採用されることもある 。  

5.3 電力網の冗長化と運用の柔軟性

ネットワーク構成: 電力系統は、一部の設備が故障しても電力供給を継続できるよう、冗長性を持たせて設計されている。送電線は複数ルートで構成され(多ルート化 )、変電所の機器も複数設置されることが多い 。配電網もループ状に構成することで、故障区間を迂回して送電することが可能となっている 。  

系統制御と保護: 中央給電指令所などの制御拠点が、需給バランスの監視・調整 や系統切り替え操作を行う。事故発生時には、保護継電装置が故障区間を迅速に検出し遮断することで、被害の拡大を防ぐ。大規模な需給変動に対しては、周波数低下リレー(UFR)などが作動し、系統全体の崩壊(ブラックアウト)を回避するための負荷遮断を行う 。配電自動化システム(DAS)も停電時間の短縮に貢献する 。  

広域連系: 電力広域的運営推進機関(OCCTO)が中心となり、地域間連系線を通じて全国レベルでの電力融通を調整する 。これにより、大規模災害時にも被災を免れた地域から被災地域へ電力を供給し、需給バランスの安定化を図ることが可能となる。  

5.4 災害対応計画、訓練、連携体制

防災業務計画: 各電力会社は、災害対策基本法等に基づき、詳細な「防災業務計画」を策定・整備している 。これには、災害発生時の対応体制(非常災害対策本部の設置基準 など)、情報収集・伝達、応急・復旧活動の手順、資機材・人員の動員計画、復旧優先順位(病院、公共機関など )などが定められている。  

防災訓練: 計画の実効性を高め、要員の練度を向上させるため、各社は年1回以上の防災訓練を実施している 。南海トラフ巨大地震などを想定した実践的な訓練 や、関係機関(自治体、自衛隊など)との合同訓練も行われている 。  

連携体制:

  • 電力広域的運営推進機関 (OCCTO): 大規模災害時には、全国の電力需給状況と設備被害状況を把握し、電力会社間の電力融通や応援(資機材・人員)の調整・指示を行う司令塔としての役割を担う 。OCCTO自身も防災業務計画を定めている 。  
  • 電力会社間の相互応援: 電力会社間では、「災害時連携計画」 に基づき、被災した電力会社に対して、他の電力会社が必要な人員、資機材(電源車など)、技術支援を提供する相互応援体制が確立されている 。応援作業の迅速化のため、応急的な復旧方法(「仮復旧」 )の手順や使用工具の標準化も進められている 。  
  • 外部機関との連携: 迅速な復旧のためには、国、地方自治体、自衛隊、警察、消防、道路管理者、燃料供給事業者など、多くの外部機関との連携が不可欠である。情報共有、道路啓開の要請 、燃料の優先供給 、復旧拠点の確保、避難所への電源供給などについて、平時から協定締結や連絡体制の構築が進められている 。被害状況等の情報共有を効率化するシステムの開発も進められている 。  

資機材備蓄: 復旧作業に必要な資機材(ケーブル、接続材、変圧器、工具など)、燃料、作業員の食料・生活必需品などは、計画的に備蓄・管理されている 。OCCTOを通じて、会社間での資機材の相互融通も調整される 。  

これらの現行対策は、過去の災害から得られた教訓を反映し、継続的に改善されてきたものである。特に、耐震基準の適用や設備の物理的な強化に加え、系統運用における柔軟性確保と、組織的な連携による迅速な復旧体制の構築が重視されている。しかし、南海トラフ巨大地震のような「最大クラス」の事象は、既存の設計想定を超える可能性がある。特に古い時代に建設されたインフラについては、最新の基準を満たしていない可能性も考慮する必要がある。

また、災害対応の実効性は、関係機関との複雑な連携・調整に大きく依存している。計画や協定は整備されているものの 、南海トラフ巨大地震のような広域かつ甚大な被害、通信途絶 、交通網麻痺 といった極限状況下で、これらの連携メカニズムが計画通りに機能するかは未知数であり、引き続き訓練等を通じた実効性の検証と向上が求められる。  

さらに、相互応援における「仮復旧」 の重視は、迅速な初期対応には有効だが、本格的な復旧にはさらに時間を要すること、また仮復旧状態の設備は余震等に対して脆弱である可能性も示唆している。  

表3:地中電力インフラに関する現行の主な被害軽減・対応準備策

カテゴリ具体策例主な責任主体関連情報源
耐震設計・補強・JEAG/JSCE等基準適用<br>・機器架台補強<br>・免震対策(一部)電力会社
液状化・地盤変状対策・可とう継手・管路採用<br>・ケーブル余長確保<br>・耐震性向上材料(SFRC等)電力会社
系統冗長化・運用・送配電網の多ルート化・ループ化<br>・系統制御・保護システム<br>・地域間連系線による電力融通電力会社, OCCTO
復旧準備・体制・防災業務計画策定<br>・定期的な防災訓練<br>・OCCTOによる広域調整<br>・電力会社間相互応援(災害時連携計画)<br>・外部機関(自治体、自衛隊等)との連携協定<br>・資機材・燃料備蓄電力会社, OCCTO, 関係機関

第6章 将来的なレジリエンス強化の方向性

南海トラフ巨大地震という未曽有の災害リスクに備えるためには、現行対策の継続的な改善に加え、新たな技術や考え方を取り入れた、より高度なレジリエンス強化策を追求していく必要がある。

6.1 耐震設計・材料研究の進展

性能規定型設計への移行: 従来の仕様規定(特定の基準を満たすこと)に加え、地震時に構造物やシステムがどの程度の性能(許容される変形量や機能維持レベルなど)を維持できるかを評価・目標とする性能規定型の設計アプローチの導入が考えられる。これにより、より合理的かつ効果的な耐震対策が可能となる。

新材料・新工法の開発: ケーブル自体や管路、接続部に、より高い強度、柔軟性、耐久性を持つ新素材(高強度繊維複合材など)を適用する研究開発が期待される 。例えば、古河電工は海底ケーブルにおいて接続部を減らすための長尺化技術開発を進めている 。これにより、地震時の地盤変状に対する追従性を高め、損傷リスクを低減できる可能性がある。  

高度なシミュレーション技術: 地震時の複雑な地盤と地中構造物の相互作用(特に液状化や側方流動時)をより正確に予測するための高度な数値解析技術の活用が重要となる。津波シミュレーションで見られるような高度なモデリング技術 を地震応答解析にも応用し、リスク評価の精度向上や効果的な対策工法の検討に役立てることが考えられる。  

6.2 新興技術の活用

センサーによる監視・診断: 地中線路や関連設備(マンホール、接続部など)に振動センサー 、ひずみセンサー、温度センサーなどを設置し、常時監視や地震後の健全性診断を行う技術の導入が期待される 。これにより、異常の早期検知、劣化進行の予測、被害箇所の迅速な特定が可能となり、予防保全や迅速な復旧に貢献する。感震ブレーカー のような自動遮断・検知技術の応用も考えられる。  

AI・データ分析: 膨大な地震データ、地盤情報、設備情報、センサーデータなどをAIで解析することにより、より精度の高いリスク評価、被害予測、最適な補強箇所の特定などが可能になる 。また、災害発生時には、リアルタイムの被害情報やリソース状況を分析し、最適な復旧計画の立案や作業指示を支援することも期待される。  

マイクログリッドと分散型エネルギー資源 (DER): 再生可能エネルギー(太陽光、バイオマス等)、蓄電池、コージェネレーションなどを活用した地域単位の自律的なエネルギーシステム(マイクログリッド)の構築は、大規模系統停電時のレジリエンス向上に貢献する 。災害時には、主要系統から切り離され(アイランド運転)、避難所や病院などの重要施設 や地域コミュニティへの電力供給を継続することが可能となる。エネルギー管理システム(EMS)による高度な制御が鍵となる 。  

先進的なロボット・自動化技術: ドローンによる迅速な被害状況調査 は既に活用され始めているが、将来的には、危険な場所やアクセス困難な地下空間での点検・軽微な修復作業にロボット技術を活用することも考えられる。  

6.3 政策的枠組みと投資優先順位

国土強靱化計画との連携: 電力インフラの強靱化は、国の「国土強靱化基本計画」 の重要な柱の一つである。電力会社は、自社の設備投資計画を国の計画と整合させ、エネルギーライフラインの機能維持 、ネットワークの冗長化 、新技術の活用 といった目標達成に貢献する必要がある。  

レベニューキャップ制度等の活用: 2023年度から導入された新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度)は、電力会社が策定する事業計画に基づき、送配電網の更新、強靱化、効率化への計画的な投資を促す枠組みである 。この制度を活用し、耐震性向上やレジリエンス強化に資する投資(重要ルートの地中化 などを含む)を効率的かつ計画的に進めることが重要となる。  

投資の優先順位付け: 限られたリソースの中で最大の効果を得るためには、投資の優先順位付けが不可欠である。液状化リスクが特に高い地域、基幹的な送電ルート、重要施設への供給ルートなどを特定し、重点的に対策を講じることが求められる。

戦略的な地中化(無電柱化): 無電柱化は、耐風性向上や景観改善に加え、レジリエンス強化の観点からも推進されている 。ただし、地中化に伴う地震リスク(特に液状化)も考慮し、適切な耐震設計と組み合わせることが前提となる。コストとのバランスも考慮し、電線共同溝方式に加え、単独地中化や、場合によっては低コスト手法(裏配線、軒下配線 )の活用も検討される。  

6.4 復旧能力とロジスティクスの強化

情報共有・連携プラットフォームの高度化: 災害発生時に、電力会社、OCCTO、自治体、自衛隊、復旧作業班などの間で、被害状況、リソース状況、作業進捗などをリアルタイムかつ正確に共有するための情報システムや連携プラットフォームのさらなる高度化が求められる 。  

資機材・人員の事前配置と輸送計画: 被害が予想される地域や安全な拠点に、移動用変電設備 や電源車 、主要な交換部品などを事前に配置しておくことで、初動対応を迅速化できる。また、道路寸断を前提とした、ヘリコプター や船舶、自衛隊との連携 を含む、多様な輸送手段を組み合わせたロジスティクス計画の策定と訓練が重要となる。  

専門人材の育成と確保: 地中線、特に高圧・特別高圧ケーブルの接続や修理には高度な専門技術が必要となる。災害時に多数の箇所で同時に作業が必要となる事態に備え、平時から計画的な技術者育成や、電力会社間での技能標準化・相互支援体制の強化が重要である 。  

将来のレジリエンス強化策は、従来の物理的な対策(ハード対策)に加え、情報通信技術(ICT)や運用体制(ソフト対策)を組み合わせた、より統合的かつインテリジェントなアプローチへと向かう傾向が見られる。センサーやAIを活用した予防保全・早期検知 は、事後対応型から事前対応・予測型への転換を促すものである。  

また、マイクログリッドや分散型電源の推進 は、中央集権的な大規模システムへの依存を補完する形で、地域レベルでのエネルギー自立性と災害耐性を高める分散型アプローチとして注目される。これは、大規模系統の強靱化と並行して進めるべき重要な戦略となり得る。  

しかし、これらの先進的な技術や戦略を効果的に導入・運用するためには、既存の電力システムや設備との技術的な互換性、多様なデータを統合・分析する能力、そして関係する多数の組織(電力会社、自治体、国、メーカー、地域コミュニティ等)間での円滑な連携と合意形成といった「統合」に関わる課題を克服する必要がある。技術開発と同時に、制度設計や組織連携のあり方も含めた総合的な取り組みが求められる。

結論

南海トラフ巨大地震は、その甚大な揺れと広範な地盤災害(特に液状化)により、中部・西日本の地中電力インフラに対して未曽有の脅威をもたらす。現行の耐震基準や対策(可とう継手等)は一定の防御効果を持つものの、想定される「最大クラス」の事象に対しては、依然として大規模な損傷と、それに伴う広範囲かつ長期的な電力供給支障のリスクが残る。

特に、地中線路システムの弱点は、構造的な不連続点となるマンホールと管路の接続部やケーブル接続部に集中しており、液状化や不等沈下といった地盤変状がこれらの箇所に致命的なダメージを与える可能性がある。復旧作業においては、広範囲にわたる道路網の寸断によるアクセス困難、全国的な応援リソースの逼迫、燃料確保の課題などが想定され、停電の長期化は避けられない可能性が高い。

現行の対策、すなわち耐震基準の遵守と継続的な改善、系統の冗長化、OCCTOを中心とした電力会社間の相互応援体制、関係機関との連携計画、定期的な訓練と資機材備蓄は、日本の電力レジリエンスの根幹をなすものであり、その重要性は揺るがない。

しかし、将来の巨大災害に備えるためには、これらの対策をさらに深化させるとともに、新たなアプローチを取り入れる必要がある。具体的には、

  1. 設計・材料の革新: 性能規定設計の導入や、より耐震性・耐久性に優れた新材料・新工法の開発・適用。
  2. 先進技術の戦略的活用: センサーによるリアルタイム監視、AIによるリスク評価・予測・復旧支援、マイクログリッドによる地域分散型レジリエンスの構築。
  3. 政策・投資の最適化: 国土強靱化計画との連携強化、レベニューキャップ制度などを活用した計画的かつ効率的なレジリエンス投資、リスクに基づいた投資優先順位付け。
  4. 復旧体制の高度化: 情報共有プラットフォームの強化、資機材・人員の事前配置と輸送ロジスティクスの最適化、専門人材の育成。

これらの取り組みは、単に個別の技術や対策を導入するだけでなく、それらをシステムとして統合し、組織間の連携を強化することが成功の鍵となる。

南海トラフ巨大地震への備えは、喫緊かつ最重要の国家的課題である。地中電力インフラの強靱化と対応能力の向上に対する事前投資は、直接的な被害軽減はもちろんのこと、発災後の社会・経済活動の迅速な回復を支える生命線となる。最新の科学的知見と技術動向を踏まえ、継続的に対策を進化させていくことが、将来の国難を乗り越えるために不可欠である。

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